2 さい帯血は,へその緒や胎盤に含まれている血液で,再生医療や美容等で用いられています。
3 もっとも,さい帯血の品質管理が不十分な状態で投与された場合,感染症等の重大な医療事故が発生する危険があります。そのため,さい帯血を取り扱う事業者は,届出をしなければならない等の規制に服することになります。
4 最先端の医療や科学技術に対する法規制は難しい側面があります。医療事故等を未然に防止するため規制をする必要性が認められますが,過度な規制は医療や科学の発展の障害になってしまうからです。
5 バランスのとれた内容の法律と,時代に合わせた迅速な法改正が求められている分野といえるでしょう。
(戸本)
オレオレ詐欺の被害者が警察に協力する「だまされたふり作戦」を巡り、逮捕された受け子に対して、詐欺未遂罪の成立が争点になった裁判で、同罪の成立を認める事件がありました。
詐欺罪が成立するためには、①息子になりすまして電話する(欺罔行為)、②電話口の相手が息子であると勘違いする(錯誤)、③犯人に現金を手渡す(錯誤に基づく処分行為)、④犯人が現金を受け取る(財物の移転)という過程が必要になります。
しかし、「だまされたふり作戦」では、オレオレ詐欺の電話が終了して、被害者は既にだまされたことに気づき、錯誤の状態から脱しています。その後、受け子が呼び出しを求めた場所で現金を受け取った時点において、被害者はだまされたことに気づいているわけですから、③錯誤に基づく処分行為はありえません。
とすると、犯罪の途中から関与した受け子の行為は、犯罪の実現に全く役に立っていないかのように思われます。
そこで、事前の共謀が認められなかった場合、犯罪の途中から関与した受け子の行為は、無罪ではないかが問題になります(刑法上、不能犯と呼ばれる問題です)。
不能犯が成立すると無罪になりますが、これが否定されると未遂か既遂が成立することになりますので、被告人にとって重要な問題です。以下のように考える説が有力です。
例えば、砂糖が毒とラベルした瓶に入っており、一般人も毒が入っていると思う瓶の中身を飲ませようとする行為は、一般人が危険を感じるので未遂となります。
また、砂糖の瓶に毒が入っていて一般人が毒と思わなくても、犯人自身が特に毒と認識していた場合は、一般人は危険を感じるので未遂となります。
逆に、砂糖の瓶に毒が入っていて一般人も犯人自身も毒と認識していない場合、砂糖の瓶の中身を飲ませようとする行為は、一般人が危険を感じないので不能犯になります。
そこで、不能犯が成立するか否かは、犯罪行為時において、①犯人自身が特に知っていた事情及び②一般人が認識しえた事情を考慮して、一般人の見地から犯人自身の行為の危険性を判断すべきであるとする説が有力です。
「だまされたふり作戦」では、①犯人自身は、被害者が錯誤の状態を脱していることに気づいていません。②また、一般人としても、呼び出しを受けた場所に被害者が訪れれば、まんまとだまされてお金を持って来たと思うのが通常でしょう。
①と②の事情を基礎にすると(本当はだまされてないのに、だまされた状態にあると考えるわけです)、受け子が現金を受け取る行為に、犯罪を発生させる現実的危険があるといえます。よって、詐欺未遂罪が成立することになります。
(戸本)
大阪府豊中市で小学生の列に車が突っ込み、6人が重傷を負った事故で、検察側が睡眠導入剤の影響による居眠り運転があったとして、危険運転致傷罪で起訴した女性に対して、「ハンドル操作ミス等の居眠り運転以外の過失の可能性がある」として、検察側の控訴を棄却し、無罪になったという裁判がありました。
過失の内容が、居眠り運転であろうと、ハンドル操作ミスであろうと、被告人が、過失によって、6人もの小学生にケガを負わせたにもかかわらず、無罪になるのは納得できないかもしれません。
旧刑事訴訟法によって運用されていた昔の裁判では、こういったケースでも、検察側が主張していないハンドル操作ミスを認定して、有罪を下すことができるとされていました。裁判所の審判対象は、検察側が主張する事実だけではなく、実際に起きた具体的な歴史的事実だと考えられていましたため、裁判所が、自身の判断に基づいて、検察側が主張していない事実でも審理の過程で明らかになれば認定できるとされていました。
こういった考えでは、窃盗罪で起訴されたにもかかわらす、強盗罪で有罪になることもありえますが、このような事態は被告人の防御の利益を著しく害することになります。
こういった事態にならないため、現行刑事訴訟法では、裁判所の審判対象は、検察官が主張する具体的事実(訴因)であるとされています。本件では、つまり、被告人の過失内容が、居眠り運転かハンドル操作ミスかを特定する必要があります。
そこで、こういったケースで、有罪にするためには訴因変更(検察側が主張する具体的な犯罪事実を変更し、撤回すること)という手続を経る必要があります。本件では、居眠り運転からハンドル操作ミスに訴因を変更する手続を経なければならなかったと考えられます。
検察側の訴因が的確ならば、有罪になっていた可能性が高いので、被害者や親族にとって酷な結果となってしまいました。
(戸本)
(永田)
(永田)
生まれつき茶色の髪を黒く染めるように指導され、精神的苦痛を受けたとして、大阪の女子生徒が府に損害賠償を求めた訴訟があり、新聞やインターネット上で話題になっています。(読売新聞(夕刊)2017年12月16日 引用)
争いがありますが、髪の色を自由に決める権利は、自己決定権(自分の意思に基づいて服装やライフスタイルを決める権利)の一内容であり、憲法13条の幸福追求権として、憲法上保障されていると考えることができます。
しかし、女子生徒は未成年者であり、精神的に未熟ですから、その心身の健全な発達のため、学校からの規制も、ある程度は許されるとも考えられます。飲酒喫煙が成年に認められ、未成年者には禁止されることと同じ考えです。
また、非行に走ることを防止したり、オシャレに気を付かるあまり学業をおろそかにしないようにするため、茶髪を禁止するとの学校側の規制には、世間からも一定程度の理解が得られると思います。
さらに、学校規則で禁止されているパーマをかけ続けたことを理由に、学校が退学処分をしたというケースにおいて、最高裁は、退学処分は合憲で、許されると判断を示したこともあります。
もっとも、今回のケースで最も問題になることは、女子生徒が生まれつき茶色だったという点にあります。生まれつき茶色であるため、女子生徒には、あえて規則を破るつもりも、オシャレに気をとられ学業をおろそかにするつもりもなかったでしょう。また、自毛の色を変えることは、個人の意志や努力では左右しうる性質でもありません。
たしかに、たとえ自毛が茶色だったとしても、茶髪の生徒が学校に存在することで、外部の人からすれば、あの学校には茶髪の生徒がいるとの悪い印象を与えるかもしれません。また他の生徒から、「自分も茶髪にしたい」との不満が出るかもしれません。とすると黒染めを強要することは正当な目的かもしれません。
しかし、女子生徒は黒染めを繰り返したため、頭皮が荒れる、身体的な特徴を否定されたことで精神的苦痛を受けたと主張しています。自毛が黒色の生徒が茶髪を禁止される苦痛と、自毛が茶髪の生徒が黒髪を強制される苦痛とでは、後者の方が苦痛の程度・性質が強度で深刻だといえるでしょう。
茶髪による上記弊害を考慮しても、女子生徒にこのような身体的・精神的苦痛を与えることは正当化されるとは言い難いのではないでしょうか。
(戸本)
昨年(2017年)の12月18日,マンション管理組合の理事会が理事長を解任できるかどうか争われた訴訟の上告審判決で,最高裁第一小法廷は,「解任できる」との初判断を示しました。
本件において,当該マンション管理組合の管理規約には,「理事長は理事の互選により選任する。」と定められている一方,理事会において理事長を解任できるかについては明文規定がありませんでした。他方,総会の議決事項には,役員の選任及び解任が規定され,役員には理事長を含む旨も規定されていました。
以上のことより,原審は,「理事長は理事の互選により選任する」との定めは,解任についての定めではないこと,理事長の解任は総会の決議事項となっていることより,理事会で理事長を解任することはできないとしました。
これに対し,最高裁は,理事長を理事の互選により選任するという定めは,理事の過半数の一致により理事長を解任できるとの趣旨も含むと判断しました。従来,理事長を解任するには,総会決議によるか,理事長に不正な行為その他職務を行うに適しない事情があるときは,各区分所有者が単独でその解任を裁判所に請求することができる(区分所有法第25条第2項)とされていましたので,理事長解任の選択肢が広がったことになります。
理事会に理事長の選任権があるならば,当然に解任権もあると考えられます。その意味で最高裁の判断は妥当と考えられます。しかし,理事会で理事長を解任できるとの明文規定はありませんでしたので,理事長側にとっては不意打ちとも言えます。
マンション管理組合の管理規約は,国土交通省作成のマンション標準管理規約をそのままコピーしたものが多く,本件もそうでした。従って,本判決の影響は大きいものと考えられます。
(沼田)
長時間労働に起因する過労死として,脳・心臓疾患による突然死の話し(本HP:「長時間労働と脳・心臓疾患」参照)をしましたが,長時間労働に起因してうつ病を発症し,そのため自殺してしまう事例も増えており,こうした事例もご家族にとっては突然死そのものであると思われます。
うつ病のような精神障害は,環境由来の心理的負荷(ストレス)により発症すると考えられますが,長時間労働も上記ストレスの一つとなります。業務に起因して精神障害を発症した場合は労働災害となりますが,この判断が難しく,労災認定の審査に時間が掛かっていました。このため,厚生労働省は,労災認定審査の迅速化と基準の明確化を目的として,平成23年に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めました。
この認定基準によれば,認定要件として次のいずれの要件も満たす対象疾病(うつ病も対象疾病に含まれます)は,「業務上の対象疾病」として扱うと定められています。すなわち,
(沼田)
長時間労働に起因する過労死はかなり以前から問題となっており、長時間労働の是正が課題となっていますが、人手不足の問題もありなかなか改善されないようです。
長時間労働が怖いのは、本人のあまり自覚がない状態で疲労が蓄積し、突然死に至ることがあるということです。特に、日頃血圧が高めなどの問題のある方は要注意です。
年を取ると血管が硬くなり血圧が高めになっていくことは誰しも経験することですが、長時間労働による疲労の蓄積は、そのような自然的変化以上に脳・心臓疾患を悪化させるからです。
この過労死問題に対応して、厚生労働省は平成13年に脳・心臓疾患にかかる労働災害の認定基準を改正しました。特徴は長期間の過重業務を判断基準に導入したことです。
一部を挙げると、
(沼田)